亀山早苗

不倫は、どの立場になるかによって見方が変わってくる。不倫を知って断罪できるのは配偶者だけ。はたがとやかく言うことではあるまい。 「結婚してしまってから、本当の恋、運命の恋に出会った」と言う人は非常に多い。結婚という束縛があるから、そして「いけないこと」という背徳感があるからこそ、不倫を「運命の恋」と位置づけてしまうのだろうと思ってきた。つまりは錯覚こそが不倫の恋のエネルギー源だと考えていたのだ。 だが、最近、そうではないのかもしれないと思うようになった。ひょっとしたら、意識としての「運命の恋」は本当なのかもしれない。 結婚は「生活そのもの」である。大恋愛をしなくても「生活に差し障りがない相手」であれば、結婚生活はうまくいってしまう。経済的にも精神的にも生活が安定したところで、かつて感じたことのないような興奮と歓びに満ちあふれた恋に落ちれば、深みにはまるのは当然ではないだろうか。離婚のハードルも、一昔前に比べればずっと低くなっている現在、歯止めは何もない。 不倫が「いけないこと」なのかどうかは、当事者にしかわからない。いや、命の火が消えるときまで、当事者にすらわからないことなのかもしれない。